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東京地方裁判所八王子支部 平成11年(ヲ)259号 決定 1999年6月08日

主文

申立人の本件申立てをいずれも却下する。

理由

1  申立人は、平成一一年(ル)第八号債権差押命令申立事件につき、当裁判所が平成一一年一月七日にした債権差押命令につき、主位的にその取消し、予備的に差押債権の変更を求めた。その趣旨及び理由は別紙「差押禁止債権の範囲変更の申立書」及び「申立の趣旨の変更申立」に記載のとおりである。

2  そこで検討するに、本件記録によれば、次のとおり認められる。

(1)  相手方は、申立人の父である大屋進との間で作成した公正証書(東京法務局所属公証人高木典雄作成平成五年第一〇九七号)に表示された、同人に対する平成五年一〇月二八日付け金銭消費貸借に基づく貸付債権二億円のうち、平成六年三月二七日大屋進の死亡により、申立人が相続したとする五〇〇〇万円の内金二五〇〇万円及びこれに対する遅延損害金七三二万四九三一円及び取扱手数料を請求債権として、申立人の勤務先である第三債務者株式会社電通に対して有する給与債権、退職金債権を差し押さえた。上記貸付債権については、申立人の母である大屋德子が連帯保証しており、これを担保するため、大屋進が所有する不動産(多摩市桜ヶ丘<番地略>所在の申立人の自宅である土地建物)に抵当権が設定されていた。

(2)  申立人(昭和三〇年一月一日生)は、前記自宅に居住し、家族は妻(米国籍、昭和三一年二月一九日生)一人であり、子供はない。申立人は、株式会社電通に勤務し、勤続二一年目にあたり、本社マーケッティング・プロモーション局プランナーとして稼動し、平成一一年一月分の給与は、基本給が五八万九〇〇〇円、時間外手当が四一万〇七九七円あり、地域手当等を加え、支給総額が一一〇万二〇六七円あり、税金・健康保険料等のほか、給与から天引される金額が生命保険・グループ保険の掛け金、社員持株会費の合計八万六六一〇円あるため、控除額合計が四五万三四九二円に及び、手取金額は六四万八五七五円であったが、本件差押えにより四九万九二一五円が差し押さえられた。

(3)  申立人は、本件差押えにより、生計が維持できず、勤務先を退職せざるを得ない状況に追い込まれている旨を主張している。しかしながら、次のとおり認められる。

①申立人は、前記自宅につき、大屋德子に対し、年間一五〇万円の賃料を支払わざるを得ないと主張する。しかし、前記抵当権設定に際しては、居住する相手方との間で賃料の授受がないことを確認する書面が提出されたこと、母德子も同一の建物に居住し、ガス代金を一体として負担するなど互いに生活を援助しあう関係にあるものと認められることからすれば、申立人がこのような高額の賃料を現実に負担せざるを得ないものとは認めがたい。また、自宅につき抵当権が実行されており、売却されれば、申立人が明渡しをせざる得ないことが明らかであるが、いまだ売却が実現しておらず、引越費用や賃料相当額を現に負担していると認めることはできない。②申立人は、仕事の性質上、多額の交際費を必要とし、一か月に二五万円を自己負担しており、残業が多いため、タクシーを利用せざるを得ず、一か月に一五万円程度タクシー料金を出費しており、また、外食が必要で、食事代金に多額を要すると主張する。しかしながら、申立人が仕事上、交際費を必要とし、タクシー代金や外食のため相当の費用を必要とするものと認めることができるが、前記手取額に比しても、主張の交際費・タクシー料金は多額にすぎ、現実に出費したもののうちには、本来必要としないものや経費として請求できるものも相当あるはずであり、勤務先からタクシー手当も支給されており、自己負担すべき金額は不明というほかはない。また、申立人が総務的な事務職への配置転換の内示を受けたことが認められ、これが現実化するおそれがあるとしても、退職せざるを得ないとまでは考えがたい。③申立人の妻は、中央大学大学院法学研究科政治学専攻博士課程の後期課程二年次に在学しており、学費として年間約六〇万円を大学に支払い、書籍代金として相当額を必要とし、無職であるため、申立人が援助をしている。④以上のほか、食事代、衣服費、電話料金、水道・ガス料金、娯楽費・雑費につき、申立人に特別の負担があるとは認めがたい。妻が近視矯正手術をしたことが認められるが、その後も高額の治療費用の債務を現に負担していると認めることはできない。また、申立人が、平成一〇年六月ころ、ボルボS70を自動車ローンで購入し(自動車の名義は妻)、その返還債務のほか自動車保険の保険料や自動車の維持管理に費用を要している事実が認められる。また申立人が生命保険に加入し、多額の保険料を負担している事実が認められる。しかし、この自動車が生活に不可欠というべき事情を認めることができないし、生命保険につき、相当額の負担は考慮できても、これを超える負担は、必要以上の保証や資産の維持に費用を要しているのであって、この負担を本件において斟酌することはできない。

以上のとおり、申立人が、将来、自宅を明け渡さざるを得ず、そのため費用を要すること、仕事上、交際費等を負担せざるを得ないこと、妻が学生として費用を要し、申立人が援助をしていること等の事情が認められるが、申立人は、妻との二人暮らしであり、妻においてまったく稼動ができないものとも認めがたく、本件差押えを受けても、毎月二一万円と賞与二一万円を確保可能であり、前記事情を考慮しても、通常の生活水準に比して、著しい支障を生じない程度の生活水準を確保することが困難とは認めがたく、差押禁止債権の範囲を拡張すべきものとは認められない。

3  よって、申立人の本件申立てはいずれも理由がないから却下し、主文のとおり決定する。

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